= 覚え書(32) =今回から無冠詞を扱います。無冠詞形は、当然のことですが、不定冠詞も定冠詞も用いられない場合に使われます。つまり、「どの?」を念頭に置いた一致確認の場合(定冠詞を用いる場合)でも、可算名詞に関して「どんな?」を念頭に置いた形容の場合(不定冠詞を用いる場合)でもない、ということです。定冠詞については十分に述べてきましたから、ここで問題になるのは、主に不定冠詞か無冠詞かということですが、その前提として、可算名詞と不可算名詞について述べておく必要があります。
可算名詞と不可算名詞
ある名詞が可算名詞か不可算名詞か、という考え方はあまり実用的ではありません。多くの名詞は、可算名詞と不可算名詞の両方に用いられるからです。重要なことは、どのような場合に可算名詞として用いられ、どのような場合に不可算名詞として用いられるかを知ることです。また、必ず、あるいはほとんど必ず不可算名詞として用いられる単語もありますから、これらはある程度覚えておく必要があります。可算・不可算の区別は、理屈ではなく、習慣上決まっている単語が多くあり、日本人をはじめとする英語の非ネイティブスピーカーとしては、結局、間違いやすい単語に注意して、一つ一つ覚えていくしかないでしょう。 可算名詞として用いるか、不可算名詞として用いるかを分ける基本的な基準は、その名詞が意味す� ��事物が、日常、境界線・仕切りを持った典型的な形状として意識されるかどうかです。境界線は空間的な意味でも時間的な意味でも、あるいは種類の区別でも構いません。つまり、通常、1個、2個というように数えられる物は、空間的な境界線を持ち、個別にそれぞれ分かれています。また、事柄の場合、始まりと終わりがあれば、それを境界線と見なして、1回、2回と数えられる名詞として用いられます。さらに、1種類、2種類のように種類が意識されるものも可算名詞として用いられることがあります。しかし、このような説明だけでは、可算、不可算を普段意識しない日本人にとってはほとんど役に立ちませんから、具体的な例を見ていきましょう。
不可算名詞のイメージが強いもの
まず、物を表す名詞を挙げましょう。次のような名詞は、通例、可算名詞としては用いられません。主に食材です。例えば「牛」は可算名詞ですが、「牛肉」は普遍的に決まった形状を思い浮かべることはありませんから、不可算名詞です(chicken は「ニワトリ」と「鶏肉」の両方で用いられますから、可算名詞でもあり、不可算名詞でもあります)。なお、単語のグループの前に付した(T)、(U)、(V)という番号は、大ざっぱな分類を示しており、(T)は不可算名詞のイメージが強いもの、(V)は可算名詞のイメージが強いもの、(U)はその中間です。ただし、あくまでも大まかな分類でしかありませんから、各単語の細かな意味用法については、辞書などで確認して下さい。 (T−A)(原則不可算) beef(牛肉) pork(豚肉) mutton(ヒツジの肉) ham(ハム) bacon(ベーコン) celery(セロリ) spinach(ホウレン草) asparagus(アスパラガス) ginger(ショウガ) garlic(ニンニク) corn(トウモロコシ;集合的不可算だが、粒のときは可算も) rice(米;curry and rice や curried rice(カレーライス)も通例不可算) wheat(小麦) barley(大麦) rye(ライ麦) spaghetti(スパゲッティ) toast(トースト) salt(塩) pepper(コショウ) など
さらに次のような名詞も、原則として不可算名詞です。決まった形状が意識されない物や、細かいために1つ1つを日常レベルでは意識しにくい物です。 (T−B)(原則不可算) water(水) ice(氷;氷菓は可算) coal(石炭;1つ1つの塊を意識したときは可算も) sand(砂;sands は砂地) grit(砂) gravel(砂利) paper(紙) dust(ちり) dirt(ほこり;a dust は立ち上る一塊・一回のほこり) garbage(ゴミ) rubbish(ゴミ) trash(ゴミ) dynamite(ダイナマイト) land(土地;lands は…地帯) copper(銅;製品なら可算) marble(大理石;製品なら可算) rubber(ゴム;製品なら可算) tin(スズ;製品なら可算) tobacco(タバコ) armor(鎧) など
次に、通例、不可算名詞であるが、種類を表すときに可算名詞として使える名詞があります。ちなみに、(T−A)と(T−B)の名詞は、"some kinds of water(何種類かの水)"のように kind を使います。以下の名詞は、kind を使っても使わなくても表現でき、例えば「数種類のワイン」なら"some kinds of wine"でも"some wines"でも可能です。種類であることを明示したいのなら、kind を使えば良いということになります。 (T−C)(種類のときは可算も可) wine(ワイン) cheese(チーズ) soup(スープ) fruit(果実) meat(肉) bread(パン) pasta(パスタ) grass(草) soap(石鹸) oil(油) chalk(チョーク) candy(キャンディー(菓子)) jam(ジャム) sugar(砂糖;スプーン一杯の砂糖・角砂糖は可算) butter(バター) margarine(マーガリン) cloth(布;布切れなら可算) silk(絹;silks は絹の服) yarn(編み物・織物用の糸) ink(インク) など
これらの名詞は、日常生活の中で、不可算名詞でありながら、種類を意識しやすいものであるために、このような使い方ができるようになったと考えられます。(1)は不可算で不定の量を意味し、(2)は可算の例で、「トマトが野菜の一種」であることを述べています。(1)Please help yourself to some fruit.(果物を自由に召し上がって下さい)『英文法解説』(金子書房)
(2)The tomato is a vegetable, not a fruit.(トマトは野菜で、果物ではない)『同上』
また、日常生活の中で、カップやグラスなどの容器に入った状態でよく目にする物や、一人分、一人前といった形で出される物は、普段不可算名詞であるものが、可算名詞として扱われることがあります。これは、特に飲み物や食べ物を注文するような状況で見られます。このような名詞は種類を表すときにも可算扱いできるものが多いと言えます。
(T−D)(注文時・種類のときは可算も可) coffee(コーヒー) tea(紅茶) milk(ミルク;種類を言うことはほとんどない) beer(ビール) whisky(ウィスキー) juice(ジュース・果汁;肉汁のときは複数が普通) stew(シチュー) curry(カレー料理) など
(3)Next time you go shopping, please buy some beer.(今度、買い物に行ったら、ビールを買ってきて下さい)『原因別 日本人が間違いやすい英語』(朝日出版社)
(4)Waiter, please bring us two beers and three coffees.(ウエイター、ビール2つにコーヒーを3つ下さい)『同上』不可算名詞と可算名詞の中間
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